[現場リーダー] サービス中心主義 -- 中小SIerにこそ必要なビジョンとは

以前書いたエントリ(母性的な中小SIer)の続編であり、前回を「問題提起編」とするのであれば、今回は「回答編の開始編」となる。これからしばらく時間をかけて、SIerにとっての現実的ビジョンを提起してみたい。
まず、以下は前回のエントリからの引用。

逆に、組織に分かりやすく納得できる経営ビジョンがある時は「俺について来い」状態となり、父性的・狩猟的な「狩の獲物は皆で山分け」戦略が取れる。

どちらが良い悪いではなくて、中小SI企業は母性的な性格になりやすくなるんじゃないか、と考えていて、だとすればそのような組織で働く人間の行動も以下のようになると思われる。

1. 父親になろうとする。つまり、自分でビジョンを描き出し、組織から次第に距離を置きたがる。
2. 子供のままでいようとする。つまり、モラトリアム。

ただし、母親の後を継ごうとする人は少ないだろう。母親とは組織(実際にはその組織を構成する管理職群)そのものであり、すでにたくさん存在するからだ。結果甘えた子供と、群れを巣立ちたい人達に分かれがちになってしまう。これが一体感のない、一枚岩じゃない状態だろう。

ちょっとあいまいな表現だけども、要となる問題意識は「一体感の無さ」による組織の脆弱さと、そして何よりそんなんじゃ現場で働いてても楽しくないんじゃないか?という思いだ。あまりにも管理職になりたい人がいないのも困るし、それにみんながてんでバラバラで行動する組織が生き残れるほどこの業界は甘くはない。

課題は何だろうか。父性的で、美辞麗句的になりがちなトップダウンのビジョンを描き出すことだろうか?ぼくは違うと思っている。まず、現場に即した泥臭いビジョンをみんなで共感・共有し、それにのっとった行動を全てのエンジニアとマネージャがいますぐ開始することだ。
そしてもう一つ、ビジョンはSIというビジネスに直接的に貢献する必要がある。具体的には、お客さまにとっても、組織にとっても、働いているエンジニアにとっても有益でないといけない。当たり前の話だけど、現実的とはこういうこと。

ぼくは、今から描くビジョンを「サービス中心主義」と呼びたい。サービスという言葉の定義をあいまいにするとあとでややこしくなるので、ここで定義しておくと、ここでのサービスとは、「ぼくらSIerがお客さま(エンドユーザー/発注元)に提供する問題解決の全て」のことであり、Webサービスの「サービス」とも、サービスウェア理論の「サービス」とも、また違う。

さて、このビジョンは「顧客満足度主義」と何が違うのだろうか。実は鳥瞰すると同じかもしれないが、ぼくの気持ち的な差別化を1点挙げると、

  • よりエンジニアやマネージャの行動に影響を与えることを意図する

ということであり、前提とするのは、

  • エンジニアはお客さまとの関係に充実感を持つ

という事実になるかと思う。これが事実かどうかは人それぞれだと言われればそれまでだが、ぼくは事実だと信じている。というか、逆に言えば、自分の仕事を限定し、お客さまとの関係を拒絶することでアイデンティティを保つようなエンジニアは必要ないし、生き残れない。
そして、もう1点主張したいのは、「サービス中心だからこそ、技術をないがしろにしない」ということだ。詳しいことは次回あたりに書こうと思うが、要は顧客に対する問題解決を重視すると、その手段である技術なんかは当たり前に使いこなせる必要がある、ということ。極論すると「そのプログラミング言語の経験はありません」などといった言い訳はできなくなるよ。

戦略的に重要なキーワードは「透過性」。「存在を意識しなくてもよい」という意味で使われる透過性だ。よく「ネットワーク透過性」とかいう文脈で使われる言葉で、サービス中心主義では、次の3つの透過性を実現したい。

  • 技術の透過性

技術を足かせにせず、どんな技術でも強力な脇役として使いこなせること。

  • ロケーションの透過性

いつでも、どこにいても問題解決を提供できること。

  • マネジメントの透過性

誰でも(マネージャじゃなくても)判断し、自律的に行動すること。
それぞれについての具体的なことは、次回以降詳しく書きます。