ビジネスアナリストというキャリアパス

今から20年くらい前。私が駆け出しのころは、エンジニアはプログラマーから始まってシステムエンジニア(SE)にキャリアアップするものだ、と教えられていました。プログラムばっか書いているようでは一人前ではない、と。

いまではご承知のように、すっかりこの構図は逆転していて、プログラミングができないとエンジニアとしての市場価値が上がりません。アジャイル手法も含めたモダン開発やDXと呼ばれるような領域では特にそうです。

当然、私も自社のエンジニアの技術転換を進めたり、技術転換を教育サービスとして他社に展開しようとしているわけですが、一方、業務知識や業務理解能力を活かし、要件定義やシステム企画にやりがいを感じている人も一定数いて、そのような人のキャリアパスをどうしたもんかな、と少しもやもやしています。

そんな時出合ったのが、アジャイルスタジオ福井に見学いただいたことをきっかけにコラボイベントもさせていただいた、エル・ティーエスの山本さんと大井さんの書かれた「Process Visionary デジタル時代のプロセス変革リーダー」です。 

Process Visionary デジタル時代のプロセス変革リーダー

Process Visionary デジタル時代のプロセス変革リーダー

 

ビジネスアナリストという職種は耳になじみがないかもしれませんが、私たちエンジニアがイメージしやすいのは、お客様側の立場でRFPの作成を支援したり、要件を取りまとめたり、変更管理をする役割です。アジャイル開発であれば、プロダクトオーナーをサポートする役割で同じチームのメンバーになる可能性もあります。

これは私も意外だったのですが、最近のビジネスアナリストは、プロダクトオーナーをサポートする役割を担うことも多いとのことです。著者の山本さんに伺うと、やはりプロダクトオーナーは忙しかったり、システム化するにあたっての知識が不足しがちなので、そのあたりを補う役割となるそうです。Scrumで言うところのリファインメントを担当するイメージですね。

もう一つ身近に感じたのが、ビジネスアナリストの基礎スキルであるビジネスモデリングについて。BPMNなどの記法を駆使して現状業務を整理したり、あるべき姿を描いたりします。このような図はSE時代に私も書いていたので親近感が。

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本書P162より

また、以下も本書からの引用で、「ビジネスアナリストが果たす役割」なのですが、日本でビジネスアナリストという職種の方がまだ少なくて欧米ほど認知されないのは、システム開発を外注化し、これらの役割の一部をベンダーSEが肩代わりしてきた歴史と無関係ではない気がしています。 

  1. 客観的な立場で業務・サービスの問題分析を行う
  2. 多くの関係者からあがる要求をまとめ、新たなビジネスプロセスを設計する
  3. ソリューションを開発するエンジニアに要求を伝え、要求通りのソリューションとなっているか検証する
  4. 取り組みに関係する部門・組織のコミュニケーションハブとなり、関係者の協力体制を構築する

しかし、日本においても、DXを成し遂げるためのシステムやサービス開発で内製化が主流になりつつあるのと同じ理由で、ビジネスプロセスマネジメントの変革を継続的に行っていくために、ビジネスアナリストという仕事も内製化され、専門職としてより認知されていくのではないか、とも思えます。

そのような将来像を考えるとき、私のようなベンダーの立場であっても、プログラマー以外のキャリアパスとして、ビジネスアナリストという職種がぐっと現実味を帯びるように感じました。

ここまでの書きっぷりだと、ビジネスアナリストは要件定義などの上流担当SEとほぼ同じ仕事なのか?と勘違いされてしまいそうなのですが、実際にはそう単純なものではないようです(IT部門に所属する「ビジネスシステムアナリスト」やビジネス部門に所属する「ファンクショナルアナリスト」、さらに、それらのステップアップ先であり、全社横断的な変革を担当する「エンタープライズビジネスアナリスト」等に分かれるとのこと)。

本書には、業績を担うオペレーション人材と、変革を担うビジネスアナリストとを対比する一節があり、オペレーション人材が足元の業績を維持拡大する役割であることに対し、(変革をミッションとするエンタープライズビジネスアナリストに限らず)ビジネスアナリストは長期的な組織の競争力を強化する役割であることを強調されています。

変革のためには、顧客や組織に対してもノーを突き付ける必要があるタフな仕事ですが、そのやりがいや面白みも大きいでしょう。

本書は、ビジネスアナリストという仕事の解説にとどまらず、日本における事例やヨーロッパにおける育成法についても解説されています。ベンダーの立場で要件定義を担当されている方や、エンジニアのキャリアパスとして、プログラマ以外の専門職に関心を持たれている方にもお勧めできます。「自分のやってることってビジネスアナリストの仕事じゃない?」という気づきが得られることは、価値があると思います。