「不機嫌」というメッセージ 『不機嫌な職場〜なぜ社員同士で協力できないのか』を読んで

本書での「不機嫌」とは「協力できなくなった社員の関係」の象徴であり、その原因を大きく3つあげています。それぞれについて、私にとってなじみ深い中小の受託開発組織に当てはめて検証し、課題化してみます。

1.進む組織のタコツボ化

まず、効率化と成果主義の圧力に原因の一つを求めています。

組織としては、個人個人の専門性を深めるために、個々の仕事を細分化していった。この細分化によって専門性を高め、仕事の成果や品質が安定するだけでなく、コストも習熟することで下がってくる。習熟カーブが効くことによって、組織の生産性は上がっていくという見込みもあった。

ソフトウェア、特に受託開発を行う組織でももちろん、仕事の専門性を深め習熟することで競争力を高めていきました。業務や技術に特化することで生き残るわけで、これ自体は悪いことではありません。まっとうな戦略です。
しかし、タコツボの深みにはまってしまったメンバー、つまり特定の業務に習熟し過ぎたためにそこから抜けられなくなり、仕事にマンネリを感じるメンバーがいるのも事実でしょう。個人の意思により、違う仕事にチャレンジできる余地を持った制度が求められています。

2.評判情報流通と情報共有の低下

情報共有を否定する開発者はいませんが、分断された現場は、知らない人を増やしています。

「知っている人だから」という気持ちがあるのとないのとでは、協力行動に違いが出るのは自然であろう

これを解決するための場として、かつてはクラブ活動や社員旅行などの「インフォーマルネットワーク」が重要な役割を果たしたとあります。今ならブログやコミュニティ活動によって人との関係を補うことができるとは思いますが、これらの手段はすべての人にマッチするものではありません。「強制的にでも全社員を巻き込む仕掛け」はやっぱり必要です。

3.インセンティブ構造の変化

単なる長期雇用というインセンティブは既にソフトウェア業界で成り立っていません。人材は流動化しており、独立・起業する人も多く存在します。

今の会社で上手くいかなければ転職すればいい、とは現在、多くの社員が心の中に抱いている思いであろう。
このような社員を取り巻く環境の変化により、社員の意識は変化している。単に、「長期的な雇用を保証しますよ」と言っても、まったく信用されない状態である。

高いミッション性や仕事を楽しめる環境、さらには同好の士の存在というインセンティブが必要になり始めています。開発者には「タコツボ化しない程度の専門性」「情報共有を推奨する環境」「個人と組織ミッションの調整のしやすさ」といった、複合的なインセンティブを与える必要があります。

不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)

不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか (講談社現代新書)

余談:不機嫌メッセージを逃さない

人間に機嫌という機能が進化・高度化したのは、コミュニケーションの手段として役に立つからなのでしょう。機嫌の良さ・悪さを意識的あるいは無意識に使い分けることで、相手を近づけたり遠ざけたりすることができます。これは集団で社会的生活をする生き物、人間にとっては重要なことです。気の合う仲間、気遣いのできる相手を選別する手段にもなっただろうし、敵を見つけたり、作り出すことすらできます。

だからこそ、プロジェクトというチームワークが必要なソフトウェア開発現場において、「機嫌」をマネジメントするのはとても重要なことです。例えば上司やリーダーの機嫌が悪ければ、それは確実にチームに悪影響を与えます。機嫌の悪さは「今は声をかけるな」というメッセージとして認識されますから、メンバーや部下は声をかけそびれたり、正直な報告ができなくなります。
もちろん、メンバーが不機嫌な態度を取るときも、そこには必ず何かのメッセージが込められています。リーダーはそれを極力汲み取るよう努力をすべきですが、空気を読むだけでなく、直接それをヒアリングする機会を設けること。これは自戒を込めて書いておきます。