書評『アジャイルな見積りと計画づくり』

安井さん角谷さん。献本ありがとうございます。

アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~

アジャイルな見積りと計画づくり ~価値あるソフトウェアを育てる概念と技法~

第一印象

読み始めてすぐ、「なんて引きの強い本だろう!」と感じました。つまり、読み始めると止まらない。アジャイル開発にフォーカスしているだけあって、同じく「見積り」がテーマで網羅的なマコネルの『ソフトウェア見積り』に比べ、没入しやすいのです。
かといってアジャイルに習熟している人だけを対象にしてはいません。第3章「アジャイル手法」を読めば、アジャイル開発の概略について理解できるようになっています。このあたりの構成が巧みです。読者が知りたいと思うことが、次々に書かれていてもったいぶってないのが好印象です。

受託のマネージャとして読み込んでみた

さて、ここからが本題なのですが、ごく普通の受託開発プロマネや現場リーダーとしてのこの本の印象です。
受託プロマネとしてアジャイル系の本を読むと感じがちな突っ込みどころとして、「うちらがやってるプロジェクトは・・・」

  • プロジェクトには定められた締切があり、かつスコープも厳密に決まっている
  • プロジェクトが契約で縛らている
  • 要求がごく表面的にしか把握できていない

などなどの制約があるんだよなぁ。といったところです。

私ももちろん、そう感じながら読み進めたところ、、
ちゃんと第17章に回答が書いてあるじゃないですか!(上の3つは第17章冒頭からの引用)答えは「バッファの取り方」。詳しくは実際に読んでみてほしいのですが、第17章や第16章の内容は、僕ら受託開発を生業にしてるマネージャも必読です。

念のため。本書でいう「見積り」は「コミットメント」とは違います。本書はコミットメントとしての見積り(工数算出)手法の本ではまったくありません。プロジェクトプランニングの本です。見積りは、プランニングを続けるための手段です。だから、「これ読んどけば見積りをはずさないの」とか、そんな質問に答えることを目的にはしていません。

残された課題

本書は主にプロダクト開発を題材としているので、プロダクトが生み出す金銭価値による優先順位付けなどの話題も多いです。なので、アジャイルなプランニングを受託開発プロジェクトに適応するには現場ごとの工夫が必要です。
先ほど挙げた「バッファ」の扱いなどは、いろいろ各現場で工夫できそうです。決められた予算&提出しちゃったコミットメントと、チームの持つ能力とのバランスを取り、さらにチームの持つ能力を高めていくことが、僕らマネージャの課題だと感じます。

最後に

訳者あとがきにあるように、本書は「アジャイルごっこ」を脱するためにも役立ちます。アジャイルは開発者のものだと思い込んでるマネージャや現場リーダーのみなさんに特にお勧めです。