書評。『正しいものを正しくつくる』を読んで顧客との共創に向け腹をくくる

著者の市谷さんがあとがきに書いているように、「正しいものを正しくつくる」は、プロダクトをアジャイルにつくるということに関する、市谷さんのここ5年を中心とした実践に基づく、まさしく冒険の記録です。

本書は入門書ではありませんが、経験の浅いスクラムマスターにとっては、第2章「プロジェクトをアジャイルにつくる」・第3章「不確実性への適応」は、Scrumというフレームワークの良いリファレンス実装として役立つでしょう。特に期待マネジメントや余白(バッファ)調整について詳しく、アジャイル開発になんらかの形でかかわるマネージャにとっても面白いはずです(個人的に「広さでコミットし深さで調整するプランニング」が気にいりました。とてもわかりやすくバランス感覚のあるスコープ調整のガイドとして有用です)。

プロダクトを成功させる=アウトプットだけでなくアウトカムを出す、には「正しいもの」が何であるか、価値はどこにあるかを探索する必要があります。第4章「アジャイル開発は2度失敗する」・第5章「仮説検証型アジャイル開発」は、プロダクトオーナーはもちろん、POをサポートするスクラムマスターやチームメンバーも是非読んでおきたい内容です。もちろん、「正しくないものを正しく作ってしまった」経験のある私にはとても刺さりました。うん。やっぱりユーザーインタビューのような軽い検証を複数回行うべきだったな。。

本書の全編に横たわるメッセージは、「壁を超えること・壊すこと」。

私もプロダクトのPOをしていた時、チームとの間に壁がなかったかと問われると自信がありません。第6章「ともにつくる」は、そんな、何かとしんどいPOの機能を代行する「プロダクトオーナー代行」が印象に残ります。

アジャイルスタジオ福井でのリモート開発でも、お客様のシャドーとしてPO代行を置くことがあります。ただ、その際でもPO代行はあくまで「仕様ホルダー」としての役割に徹するのですが、本書では、一部の意思決定にまで踏み込んだPO代行について提案しており興味深い。曰く「プロダクトオーナーなる唯一絶対の存在の民主化」。まさにアジャイルを越える挑戦であり、 ユニークです。らしいな、と思いました。

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5年前の私は、社命でそれまでの事業部を離れ、各部署から集まった有志と事業検討の横断プロジェクトを始めました。その中の一人が市谷さんで、仲間と一緒に新しい受託開発の形について様々な検討をして一区切りついた後、旅立ち、開発とビジネスの境目を越境し、活躍の場をどんどんと広げています。本書は、そんな市谷さんの知見を惜しみない勢いで言語化した、(現時点での)集大成とも言えるでしょう。

前回のブログでも軽く吐露したのですが、受託開発を生業とする私にとっても、「アジャイルのその先」は常に頭から離れないテーマで、顧客と開発者の垣根がない共創世界をどうやってWin-Winの形で実現するかが優先課題となっています。

本書は、そんな私にとっては、先に越境した先輩からの道しるべのように読めました。市谷さん、ありがとうございます。