「変えないために変わり続ける」蕎麦屋のしきたり

まず酒を一本取り、お品書きを吟味しながらおもむろに飲みはじめ、しかるべき時に手の掛かりそうな「つまみ」を注文し、できてきたらお代わりの酒を注文、食べているうちに「蒸籠、一枚」。水を切りながらつまみつつ、「もう一本」。「板わさでもおくれヨ」。酒がなくなる頃、「蒸籠、もう一枚」。これをゆっくり食べて、湯桶を入れて、残りの汁を全部飲んでしまってから「お勘定」。こういう段取りですと、お金もそう使わず、そうかといって金高も適当ですから店も喜び、「毎度ありがとう御座います」ということになります。

これ読んでまねしたくならない人は大人じゃないね。
仕事柄東京に行くことは多く、毎週のように立ち食いのそばは食べるのだけど、蕎麦屋に凝ったことはありません。でもこの本を読んで一度老舗に足を運びたくなりました。
更科(さらしな)・砂場・藪、この3つが蕎麦屋の三大系列だそう。そんな基本的な薀蓄から蕎麦屋というビジネスの歴史も勉強になりますが、私がハッとさせられたのは次の一文。老舗の本質が垣間見えます。

しかし、これはいっぺんに変えたのではなく、それこそ20年もかけて変化させていったのですが、これが、醤油を使って汁をこしらえている私たちにとっては大変な困りものでした。どう困るかというと、混合の分量が微妙に変化するので、次第によってはかえしの砂糖の量を減らし、ミリンも従来より少なめにするといった対応が必要だからです。
「親に教えられたとおりにやっております」というとマスコミのかたは感心されますが、正しくは、材料が変わっても「親が教えてくれたとおりの味にしております」というのでないと伝統の味は守れません。

「変えないために変わり続けなくてはいけない」これって、どんな仕事をしてても大事な考え方かもしれません。ソフトウエアにより提供するサービスという価値も同じ。技術が変わっても満足度を落とさず、さらに良くしていくには普段の努力が必要なのです。

蕎麦屋のしきたり (生活人新書)

蕎麦屋のしきたり (生活人新書)