RSGT2020で何を学びたかった/学べたか ~ 全参加セッションレポート

参加できなかった同僚&自分のために、キーノート以外で参加した全セッションの記録や感想をまとめました。RSGTには初参加だったのですが、面白そうなセッションが多く、迷ったら「普段自分が(主に業務で)携わることが少ない領域や経験について知れそうか?」という基準で選びました。

Day1(2020-01-08)

Ryutaro YOSHIBA (Ryuzee) - アジャイルコーチ活用術

https://slide.meguro.ryuzee.com/slides/100

Agile Studio Fukui でも、時折お客様からアジャイルコーチっぽいふるまいを期待されることが多いのですが、業務・サービスとしては積極的に扱っていないため、本業の方はどんなこと考えているのか?を知りたくて参加しました。

アジャイルコーチと言っても、コーチングだけでなく、顧客の結果と、顧客の育成に対する責任度合いによって、「カウンセラー・オブザーバー・技術アドバイザー」などなど複数の役割を期待され、それに応じて考えることもやることも変わる、という整理(スライド12枚目)が特にわかりやすかったです。今後アジャイルコーチがいる現場を支援する際の参考にもなります。

Yoh Nakamura - みなさんのプロダクトバックログアイテムはOutcomeを生み出していますか?

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受託開発の場合でも、アジャイルなプロジェクトではPOはお客様が担当することになります(現実的な理由でPOの代理を置くことも多いですが)。そこで発生しがちな困りごととして、POがOutcomeでの優先度付けをしてくれない(する方法がわからない)というものがあります。

このセッションで一番参考にしたいのは、Outcomeを「ダイヤ」という仮想的な価値で表現する運用事例です。ストーリーと同じように、相対的に価値(売り上げだったり、削減できるコストだったり)を、ざっくりと見積もることで、優先度付けに利用しているとのこと。見えるようにする、数えられるようにすることって、大切ですね。

Ikuo Suyama - 見積りしないスクラム / NoEstimates Scrum

speakerdeck.com

Scrumを回せるようになっても、見積もりについては悩むことが多いです。特に規模が大きなプロジェクトの場合、その扱いについて混乱する現場があります。十分にバックログがリファインメントされてない状態での見積もりをすべて捨ててやり直したり。

NoEstimate という考え方・やり方があることは聞いていたのですが、その具体的な事例とのことでとても参考になりました。スプリント(1Week)に収まるようにストーリーを分割(バックログリファインメント)することによって、見積もりの目的を代替えするのですね。見積もりを避けるのではなく、見積もりを数値で出してしまうことを避けている。うちの現場でも取り入れてみたいアイディアですし、見積もりの手法について、もっと掘り下げて考えてみたくなりました。

Takuo Doi - モブプログラミング x 行動分析学 x 教育 / Mob Programing x Behavior Analysis x Education

www.slideshare.net

Agile Studio Fukui でもモブプロを推進していて、大きなディスプレイを常備したモブプロ専用のスペースがいくつもあります。ただ、まだモブプロを好まない人がいることも事実です(100%モブを目指しているわけではありませんが)。

このセッションでは、ABC分析など行動分析学の知見と、大学での授業を通じた経験を共有してもらいました。初めて知ったのですが、行動を強化する「好子」と、行動を弱める「嫌子」という考え方で分析をするそうです。ちょっとうまくいってないぞ、とチームを眺める時、参考になる切り口です。

Hiroyuki Ito/伊藤 宏幸 / 高橋 勲 - 特殊部隊SETチームの日常 - 技術と実験を融合した実践アジャイル

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LINEでのSET(Software Enginer in Test :テスト自動化技術でプロダクト開発チームのテストとプロセス改善をリードするエンジニア)チームの事例で、これも受託の自分たちにはあまり縁がない分野です。

特に参考になるのは、チーム力強化のやり方。チームに入った新人と中途のオンボーディングのために、ラーニングセッション(業務時間中の勉強)を1日30分から60分と決めてやっていること。しかも全部モブプログラミングで。

さらに、(ビジネス立ち上げではなく)技術的課題の発見・解決、つまり改善のための実験として1Weekレビューのデザインスプリントを継続的に行っているとも。うちはここまで徹底できていないなぁ、と刺激になりました。

Mitsuyuki Shiiba - テックリードは未来の話をしよう (Tech Lead in Scrum)

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Scrumの役割として規定こそされてはいないものの、現実には重要な役割となるテックリード。うちにも、テックリードという呼び方はしないものの、実質的にそのような動きを期待するメンバーが何人かいるなぁ、と思い受講しました。

テックリートは何をすべき?というようなノウハウ話ではなく、テックリードの存在意義、組織における役割、チームの成長を支えることで未来を作っているんだ、という哲学です。個人的に参考にしたいと思ったのは、コーディング・レビュー・アーキテクチャ・技術選定などなど非常に多くあるやっていること、すべきことを「チームのために渡していきたいこと」と「チームのために引き受けたいこと」とに未来を見越して峻別し考えられていることです。これは、テックリードだけでなく、あらゆるリーダー役にとって意義あることです。

Day2(2020-01-09)

Mitsuo Hangai - 大企業の縦割り組織の中でProduct Discovery Teamを作ってサービスをリリース出来た話

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大企業、しかも、楽天市場というても大きなプロダクト開発での事例とのことで、普段そのような規模の開発に携わることが少ない自分として興味深く参加させてもらいました。

縦割り組織での問題をクリアするために、事業・デザイン・開発それぞれの組織からスキルを持った人を集めチーム(Product Discovery Team)を作り仮説検証から始めたとのこと。実際の店舗を対象に超具体的にペルソナ設定し、カスタマージャーニーマップ作り、ペーパープロトタイプしそれを動画撮影、店舗向けカンファレンスでガチフィードバックをもらう・・。普段自分たちがなかなか実地経験できない領域での生々しい事例であり、参考になります。

Tomoharu Nagasawa - Going Agile with Tools - たまにはツールの話もしようぜ

speakerdeck.com

アジャイル開発は身近ですが、普段はその現場で利用するツールについてあまりじっくり考える機会がないため、良い機会だと思い参加させてもらいました。

のっけから「ツールが使いこなせないのは、チームが機能してないからです」とのお言葉。ほんと、これって真実だと思います。すなわち、「問題から目をそらしている」「共通認識が持てていない」「他人事になっている」。

実際、ツール選びはチームの関心毎になりがちですが、人によって思いというか熱さが違うことが良くあります。他人事になることで上手に使いこなせず生産性が下がったりする。アイディア⇒バックログ⇒コード⇒ビルド⇒ステージング⇒本番といったモノや情報の流れ(⇒の部分)に注目することで、いかにやりたいことを加速できるか考えること重要。このアドバイスを肝に銘じたいです。

Woohyeok Aaron Kim - 【元士官が語る】軍隊組織からみる、これからのアジャイルのあり方

www.slideshare.net

リアル軍隊(韓国軍)での従軍経験から、Scrumチームと軍隊の関連性について語るセッション。この内容はおそらく日本で他で聞くことはできないでしょう。軍隊生活や徴兵制度の一端を知ることもでき、すごく興味深かったです。 

軍隊でのバックログは「体力の改善(フィジカル強化)」の優先度が高いとのこと。なるほど。そして、コミュニケーションのために、頻繁にプランニングやレトロスペクティブを行う。なるほど。基本月曜から木曜までトレーニング(途中点呼が挟まる)し、金曜日には評価、それでだめだったら、土日をつぶして追加のトレーニング!。なるほど、ハードだ。

軍隊では、上下(士官と兵士)での意思疎通が非常に重要なので、複数回層で1 on 1を実施したり、上官の上官に訴える仕組み(心の手紙)もあるとのこと。また、チームとしての幸福度を高めるために、頻繁に懇親イベントがあるそう。また、評価はチーム単位で行われることもScrumな組織との類似性が見られますし、取り入れられそうな活動も多そうです。

Matteo Carella - ORGANIC agility®: an evolutionary approach to organizational resilience

https://confengine.com/regional-scrum-gathering-stokyo-2020/proposal/11775/organic-agility-an-evolutionary-approach-to-organizational-resilience

グローバルにアジャイルコーチングのサービスを展開しているAgile42社の組織変革に対するアプローチとのことで、普段海外のコンセプトに直接触れる機会もすくないこともあり参加してみました。

「オーガニックアジリティ」という枠組みでは、組織文化と多様性を保ったままの一貫性、顧客とその価値創造にフォーカスすること、小さく実験すること、フローの最適化など、やはり時流をとらえられたアプローチであることが理解できました。

一般に欧米の方はフレームを定義したり形式知化するのが上手だといわれていますが、それを実感できた気がします。

Day3(2020-01-10)

Open Space Technology

あれほど大人数でのOSTを体験するのは初めてで、壮観でした。全部で3セッション行われたのですが、やはりというか、チーム・組織・リーダーシップ・マネジメントに関連するテーマに誘引されました。

プロコーチなど、慣れている方が多いのでしょうか、意見交換/議論も心地よく進み、自分にとって良いヒントを得ることができました。模造紙とポストイットを自在に使って議論をグラフィカルに描き見える化していく(ファシグラ)のは強力なスキルですね。

最後に

あらためまして、各セッションのスピーカーの方々、ありがとうございました。良い刺激をいただきました。また、いろいろお話できて楽しかったです。今後とも、よろしくお願いいたします。

※ 自分のセッションおよびキーノート含む全体的な感想は↓よりどうぞ。

happyman.hatenablog.jp