『悩む力』悩むから人間なんだよねぇ。

ふと、書店で手に取った本です。なんとなく、世の中先行き不透明なところがあるなぁ、と悩みというか、もやもや考えていたせいかもしれません。別に何かを求めて読んだわけではないのですが、漱石の『夢十夜』を引用した文章が印象に残りました。

その男はなぜか大きな客船に乗せられていて、自分がどこに運ばれているのかわかりません。船は、船を追い越して前方に沈む太陽のあとを追うかのように進んでいくばかりです。そこで、船頭に行く先を聞いてみるのですが、答えてくれません。船に乗っているのはほとんど外国人です。
男は心細くもあり、またこのまま船に乗せられているのも意味がない気がして死のうと決め、海に飛びこむことにします。しかし、甲板を離れた瞬間、「よせばよかった」と思います。高い甲板から海面に達するまではスローモーションのようにかなりの時間があって、その間、男はどこに行くかわからない船でもやっぱり乗っているのうがよかったと思います。そして、「無限の後悔と恐怖とを抱いて黒い波の方へ静かに落ちて行」くのです。
わけもわからないまま時代に流されるのはいやである、さりとて、それに逆らって旧時代にこだわりつづけるのはもっと愚かである、ということです。

昔、私の師匠から「悩むから人間なんだよねぇ」的なことを言われたことを思い出しました。人間として生きているのだから、一生悩み続ける必要があるということです。

悩む力 (集英社新書 444C)

悩む力 (集英社新書 444C)