続・書評『アジャイルな見積りと計画づくり』
先日の書評ではもの足りない気がしたので、もう少し書いちゃいます。
アジャイルのチャンスとTo-Beの前にある壁
私も厳しい状況を肌身で感じていますが、不景気は中小ソフトハウスのチャンスになりうるとも感じています。
小さい企業は間接費が小さい分もともと低コストです。そして、さらに短納期を実現する仕組みを持つことによって、今までは喰い込めなかったお客様に食い込めるチャンスが生まれます。
そのための武器にアジャイルを。って話はTo-Beの形としてはよく語られますが、アジャイル(アジャイルプロセス)それ自体はお客様の嬉しさに直接訴求しにくく、ここに大きな壁があります。ブレークスルーするためには、既存のお客様の既存のやり方や仕組みとしばらく付き合っていく必要はあります。
As-Isに横たわる大きな課題
現在の中小ソフトハウスの主戦場では、
- 一括契約
- 機能ベースの事前コミットメント
- 指定される開発プロセスと成果物
によって縛られ、思い通りにならないことも多いでしょう。
以前、同業の友人の悩みを聞いたことがあります。彼は苦労してプロジェクトを終わらせたのですが、品質面ではかなり不満が残ったそうです。(システムテストで単体レベルの問題が多発)まさに上の3つの条件がそろったプロジェクトで、おまけに短納期がしんどかったとのこと。
彼は「アジャイルだったらうまくいったのだろうか?」と、しきりに考え込み、私にも意見を求めました。
その時は、「一般にプロジェクトでは期間が一番のリスクとなるからねぇ」「コミットメントに縛られるのは辛いよね」「やっぱテストは省略できないよね」などと、一般論やら感想やらを言い合って終わってしまったのですが、今日になってじわじわと自分の中に問題が膨らんできています。
名ではなく実をとるために読むべき本
なぜなら『アジャイルな見積りと計画づくり』を読んだからです。
- もし、見積りを「50%見積り」にしてバッファを準備したらどうなっていたか?
- 気合入れてテストする部分とそうでない部分のメリハリをつけていたらどうだったか?
- もっとお客様を巻き込む工夫はできなかったのか?
などといった考えに(私が携わったわけではないプロジェクトなのに)囚われてしまいました。
もちろん、アジャイルは銀の弾丸ではありません。今後も大きな課題として、As-Isの仕組み(契約や開発プロセス)とうまくやっていくための工夫と努力は必要でしょう。
しかし、「アジャイルという名ではなく実をとる」意識があれば、まだまだ改善の余地はあります。この本は、私みたいな、どちらかといえばリアリストに響くはずです(バッファの取り方にしても、アジャイル固有の話ではなく、源はCCPMですし)。
To-Beのアジャイル、すなわち「お客様を巻き込んだリーズナブルな契約によるアジャイル開発」に到達する前に、開発する側が倒れてしまっては意味がありません。『アジャイルプラクティス』は開発者として実をとる姿勢を教えてくれる本でしたが、この本はマネージャとしての実の取り方を教えてくれます。